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[個人選好モデルについて]


1.購入者割合推定の2つの方式
もし、あるクライアントから「当社銘柄Bをどれくらいの人が買ってくれるか」を知りたいと言われたとする。
もしその銘柄がまだ発売されていないなら完全な予測の問題になるし、発売されてまだ1ヵ月もたっていないとして もやはり今後の売上予測の問題になるであろう。しかしその銘柄が現行商品なら、クライアントが知りたいのは「どん な人が買ってくれるのか」あるいは「どうして売れているのか」かもしれない。
もし知りたいのが後者であるとすれば、一つのアイデアとして、

 購入者割合 = 店配荷率 × 陳列注目率 × 選択確率
なるモデル式を考えてみよう。その銘柄がどれだけの店で扱われているか、来店客がどの程度陳列に気がつくか、どの 程度の割合でそれを選んでバスケットに入れてくれるか、つまりこれらの3つの要因の値をそれぞれどこからか持って きて、それらをエイヤッとかけ算するのである。このモデル式では個々の消費者であるAさんBさんが買う、買わないは 問題としない。顧客全体での各要因の割合が分かればいいのである。
これに対してこの拙文の表題に掲げた「個人選択モデル」では、AさんBさん一人ひとりがどの銘柄をえらぶかを問題に する。やはりモデル式を設けるが、100人いるとしたら同じモデル式で100回計算する。式には個人的な好みその他の要 因を入れるので、だれがどれをえらぶか計算結果は人によっていろいろだ。その結果を足しあげて、マーケット全体でど れだけの人が買ってくれるかを推定するのである。

2.個人選択モデルの説明
これから個人選択モデルについてお話しするが、あらかじめ二、三の用語について簡単に触れておきたい。

・想起集合(evoked set) 消費者が商品の選択に当たって思い浮かべる銘柄の集合。購入経験のある銘柄、関心のある銘柄、CMでよく見る 銘柄…の集まりである。考慮集合とも言うし、またこの二つを区別して用いることもある。
・選好(preference) ある銘柄が他の銘柄とくらべて好まれる程度。他と比較した上での好き嫌いである。このままではやや抽象的だが、 調査やテストで測定して数値化できるものとする。
・効用(utility) 消費者二ーズを満足させる商品の能力、あるいはニーズ充足の程度。選好度や商品属性から推測するものとする。

これらはいずれも個人別にそれぞれの値をとるわけで、個入選択モデルとの関係をフローの形で表すと図のようになる。


3.モデル式の計算
図の上肢から逐次説明する。
まず選好度の測定であるが、皆さんがいつもの製品テストで行っているように、2つの銘柄(ペア)を提示して「どちらのほうか 好きですか」「どの程度好きですか」というふうに聞く。そして、その回答結果を選好度とみなす。
この場合、想起銘柄のすべてのペアを提示するので、銘柄数が多いとペアの数も当然多くなる。例えば4銘柄なら6ペア、6銘柄な ら15ペアと加速度的に増加する。そこで、銘柄数が多いときは他の方法で代えることもふつう行われる。たとえば順位法によって 「好きな順をお答え下さい」などとする。この場合は順位イコール選好度とみなすこともできる。
次の効用値の推定は、想起銘柄一つひとつについて行う。単純には選好度を銘柄別に単独の数値になるように変換して、そのまま 効用値としてかまわない。順位法なら順位そのものを効用値にすることができる。ただあまり安直にやるとあとでモデル式の適合 度テストで引っかかるおそれがある。
もっと手の混んだ方法としては

   ・多属性態度モデル
   ・選好回帰モデル
   ・コンジョイントモデル

があるが、くわしい説明は注記させて頂く。
一人の消費者が各銘柄に与えている効用値がわかったとして、最終的にその消費者がどの銘柄を選択するかを推測しなければな らない。これには二つの異なる考え方がある。

 @まず効用値最大の銘柄をえらぶ。つまり消費者はもっとも効用値の高い銘柄を買うものとみなす。
 A効用値によって各銘柄の選択確率が決まる。
   消費者はその確率に従って、たまには次位以下の銘柄を買うかもしれないと考える。

あとのほうの考え方では

銘柄Aの選択確率 = 銘柄Aの効用値 ÷ 効用値の銘柄計
とするのが単純でわかりやすい。上式の銘柄計は想起集計の全銘柄計のことである。実際の売上シェアがこの式の結果と大きく 食い違うときには、注記で述べる方法による。そのやリ方は「ロジットモデル」と呼ばれてよく知られている。
各人がえらんだ銘柄あるいいはその選択確率が与えられれば、全対象者(サンプル)についてそれらの値を合計することに よって、マーケット全体の予測値または推定値が得られる。

4.選好度の測定方法の比較
筆者が関係しているマーケティングサイエンス学会で、山中正彦氏(1997)が発表された研究がある。以下に紹介させて頂く ことにする。研究目的はどの選好度測定方法が望ましいかに関するものである。
<使用データ>
 (1)製品:調味料
 (2)対象考:主婦311人
 (3)測定方法:次の4つの方法を並行して実施する。
    ・一対定和法…2つずつのペアについてどちらが好きかをすべての想起銘柄について聞く。
    ・定和配分法…すべての想起銘柄に好きな度合いに応じて100点を配分してもらう。
    ・順位法…すべての想起銘柄を好きな順にならべてもらう。
    ・最頻値…過去にもっともよく購入した銘柄。これはモデル式の適合度をテストするために前回の
           売上シェアの代わりに用いる。

<分析手順>
 (1)選好度への変換:
    ・一対定和法…AHP型の変換(説明後述)
    ・定和配分法…そのまま、または対数変換
    ・順位法…対数変換
 (2)効用値への変換
    多属性態度モデルを用いる。属性としては上の選好度の他にマヨネーズの「価格」を入れる。
    このモデル式は
     効用値 = β1 × 選好度 + β2 × 価格比
      で表される。βはパラメータ。
 (3)個人選択モデル
   効用値から選択確率を計算する式は前述のロジットモデルを用いる。そして同確率が最大の銘柄
   が選択されたものとする。
 (4)売上シェア
   選択銘柄を全対象者について合計して売上シェアを計算する。
 (5)適合度の計算
   モデルの適合度は、最頻値(調査済み)によるシェアを用いて
     誤差分散 = (売上シェア − 最頻値シェア)の2乗の銘柄計 ÷ 銘柄数
     として計算する。

<結論>
定和配分法による売上シェア推定の精度がもっともよかった。従ってこの測定方法が他の方法より好ましいと言えるが、 ワーディングが最頻埴の聞き方に近い、想起集合のサイズが小さい(配分の小さい銘柄は自動的に排除される)などの理由 も利いているものと思う。

5.まとめに代えて
この分析モデルを用いて、現行の適当な銘柄について実際に測定分析を経験してみたいと思う。自信がついたら、業務として 開発中の新製品の売上シェア予側に適用してみてはどうだろうか。当社のCLTを用いて工夫すれば可能と思う。「この製品が発売 されたらお買いになりますか」と購入意向を直接聞くだけが予測ではない。皆さんもぜひチャレンジして欲しい。




注)

1.多属性態度モデル
ある商品例えばケーキに対する態度Aは、このモデル式によれば「栄養価が高い」という認知Pと「そのことは価値がある」という 重要度Iとを掛け合わせた値を、他の属性(味、見栄えなど)についても求めて、それらを加算した結果A=ΣPIで決まるとする。 提唱若の名をとってフィッシュバイン・モデルとも呼ばれる。

2.選好回帰モデル
多数商品の各ペアについての優劣データがあって、選好度マトリックスを形成しているとする。それら商品をMDS(多次元尺度 構成法)によって知覚マップ(評価空間)にプロットすると同時にその空間の座標値を説明変数、評価を目的変数とする回帰直線 (選好度ベクトル)を求める方法。商用モデルのパーセプターで用いられている。

3.コンジョイントモデル
異なる属性または属性組合せの商品群について、商品ペアごとの選好度を求めて、属性ごとの効用値を求める多変量解析の一手法 で、現在多用されている。

4.ロジットモデル
個人選択モデルで効用値から選択行動を説明するときのモデルの一つ。
@第一選択、効用値最大を選択
A比例選択、選択確率を効用値に比例させる
Bロジットモデル、選択確率を。euに比例させる。ただし記号eは自然対数のべース(2.81828)、uは効用値。

5.AHP
Analitic Hierarchy Process 日本語では「階層構造に基づく分析法」で、その手順は次のとおり。
@問題の階層化、例えば問題を「車の選定」として、階層を検討項目「値段、燃費、乗り心地、車格」および候補車「A車、B車、C車」とする。
Aあらゆるぺアの一対比較…初めの階層では値段と燃費のどちらが重要か、値段と乗り心地のどちらが…というふうにペアで比較させ、次に値段について各車ペ アの比較、次に燃費について…と続ける。
Bウエイ卜決定…一対比較の結果から各検討項目の重要度、項目ごとの各車評価点を計算で決める。
C判断…各車の総合得点を計算して最終的に車を選定する。
個人選択モデルでは、商品ペアによる選好度データから各商品の好みを決定する方法として、AHP手順Bを利用する。


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