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寄稿論文


[2つの視点]


ものには2つの見方があるというと、当たり前だよ、3つも4つもいくらだってあるよと言われそうだ。そこで事前に断っておくのだが、ある出来事について長らく一つの見方が定着していて、だれもがそう信じて疑わなかったのが、ある日だれかが、待てよ、こういう見方もできるではないかと言い出した、そういう例をいくつかあげてみようというのが、この小論文の趣旨なのである。

 1 広告を見て買うのか、買ってから見るのか
ある薬局の話では「薬の名前を言わないで○○○(タレント名)が出ているアレを下さいという人が多い」とのことである。ふつうはCMを見てブランド名を知り、そのブランド名を口に出して買い求める。まあブランド名をおぼえていなくてタレントで買ってくれてもいい。むしろそのほうがCMを見て、そのあと買いにきたことがよくわかる。要するに、CMの広告効果でその商品が売れるのである。データ上では「CM認知」と「商品購入」をクロス集計すると、はっきりその関係が出てくる。つまりCMを見た人がより多く購入することが表から読み取れるからである。
では同じ表を用いて、購入者のほうが購入のあとより多くCMを見るといえるか。つまり出来事の時間的継起を逆にするのである。これは表のタテヨコを反対にしてそう自分に言い聞かせて眺めるだけだから、そのようにデータを読みとることもできなくはない。では買ってから広告を見るとはどんな状況か?
「お父さんが買った車がテレビに出ているよ」とわざわざ子供たちを呼びよせる。どうも車を買ったあとやたらその広告が目につく。買う前にはたいして気にもせず見逃していたCMをである。これが表のタテヨコ反対に読んだときの考えられる状況だ。
この現象についての解釈としては、車の選択が正しかったことを自分に納得させるためだというのが定説となっている。社会心理学者のフェスティンガー(1957)は事例研究と心理実験をもとに「認知的不協和の理論」を提唱した。この理論では、自らの認知構造のなかに矛盾した関係が出てきたとき、この不協和を減少させるように認知の中身をゆがめたり、不協和を増しそうな情報を避けようとするのだと説明する。なけなしの預金から大枚はたいて買った車の選び方が間違っていたとは、死んでも思いたくないのだ。この説はその後多くの学者の検証によって正しさが認められた。同じ表のデータが解釈に当たって2つの面を持つことは大いにありうるわけで、分析者たるもの単なる先入観や惰性で結果を眺めてはいけないことを、フェスティンガーさんは教えてくれたのである。

 2 商品情報を与えられて買うのか、与えられなくても買うか
新製品の発売は、はじめCMなどのマスコミによって知らされ、その情報が人々の間にしだいに伝わって普及していく。ラザースフェルドらの研究が提起したのは「人々はマスコミから直接に影響を受けているのではなく、まず一部の活動的な人々にマスコミからの影響が与えられ、彼らが仲介者となってそれ以外の人々に伝播されていく」という仮説である。マスコミからの影響は、2段階の流れのプロセスを伝わっていくと指摘する。この研究はトピックが若干異なるが、大統領選挙時の人々の投票行動について行われた(1940-1950)。
この過程は「コミニュケーションの2段階の流れ」と呼ばれている。この流れのなかで、マスコミからの情報をいったん仲介者として受け、さらにそれを他の人々に流していく役割を担う人は「オピニオンリーダー」と呼ばれる。一方の、オピニオンリーダーから情報を伝達されることによって影響を受けていく人々は「フォロワー」と呼ばれる(下図)。



この研究は多くのケースについて実証されたが、医師によるある新薬採用のケースについて、バートは反論している(1987)。新薬の採用を医師に決断させたのは、新薬情報が直接伝わっていったためではなく、医師のあいだに働く競争原理によるものであると提唱する。バートはネットワーク分析の研究者であるが、互いの医師はつながりを持たないにもかかわらず、ネットワーク上で構造的に似ていることから競争関係が生じる。それによって新薬の普及がすすんでいくとして、先のコミニュケーション理論を否定する。(「ネットワーク分析」安田、1997)
この説は、新商品技術が競争下にある企業間に普及していく様子にあますところなくみられよう。消費者が新商品を購入する動機も、親しい人たちにすすめられてというより、あまり親しくない他人を意識して「あいつが買うなら」と張り合う気持のほうが強いかもしれない。ヒット商品にわれもわれもとバッタみたいに飛びつくのは、実は競争意識や好奇心をかきたてられてのすえだ、とバート先生に代わって言いたくなる。

 3 ブランドイメージのとらえ方
先日ある調査員懇談会で「知らないブランドについてはイメージが出てこないのですが、それでいいのですか」と質問を受けた。調査票は次に示すとおりで、左側のイメージワードごとにヨコにあてはまるブランドをMAであげさせる。

[問]「センスのよいブランドはこの中のどれですか、あてはまるブランドをいくつでもお答えください。次に、一般受けするブランドはどれですか。…」



知っているブランドは知らないブランドにくらべればイメージが強い。したがって知っているブランドはよりあげられやすい。「知らなくても単なる感じでいいから」といわれても、そのイメージが弱ければやはり相対的には出にくい。
ではこの回答欄はそのままで、ブランドごとにタテにイメージをMAで回答させたらどうか(ただしコード番号はタテに付ける)。
よく知っているブランドでは前同様イメージはよく答えられる。しかしある程度知っているブランドならイメージが弱くても出る。このように同じ回答欄を用いても質問の方向によって、回答データは違ってくる。この2つの見方のどちらがより望ましいかといえば・イメージが弱くてもいちおう回答が出る後者のほうである。迷うならぜひ後者によってほしい。どちらでも同じだろうと安易に考えて設問する、あるいは固定観念で前のように設問するのは厳につつしむべきだ。

 4 SD法によるイメージ測定
イメージ測定は、もともとイメージワードを両極尺度として段階法で行うのが本筋である。心理学者オズグッドが言葉の語感の違いを分析する手法として考案したもので、SD法という名称で有名である(1957)。この段階尺度を用いるとき、イメージが弱いブランドは、途中の段階の目盛りで回答すればよい。
先の、イメージ項目をならべて「あてはまるものをいくつでもお答えください」というMA方式では、回答がたとえば「センスのあり・なし」という単極尺度の、しかも二者択一を強いることになって、イメージが弱いときはそれが反映されない。ムリに答えさせると、どちらに転ぶかで誤差として働く。したがってイメージをより正確にとらえようとするときは、SD法をおすすめしたい。
ただしSD方式では、前問のように6ブランドについて4項目のイメージを測定しようとすると6x4=24通りのスケールが必要となる。MA方式ならマトリックスで表現で、24個のマス目で済むので回答欄をコンパクトにできる。どうもMA方式はブランドやイメージ項目が多いときの、調査票のスペース圧縮のための窮余の策として考え出された感が強い。

注:SD法…Semantic Differencials

寄稿 (株)マーケティング・リサーチ・サービス元顧問 後藤 秀夫氏


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