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コラム


〜MENUセンサスから〜

[食卓あ・れ・こ・れ]


これまでの3回はテーマも内容も堅すぎたきらいがある。私も少々飽きたので、今回は「食卓あれこれ」とした。メニューセンサスという 調査を通じて経験した、食や食事にまつわる話を紹介したい。


 1 前渡しの謝礼金が引き起こしたもの
第1回調査の1975年秋季調査のときのこと。当時は対象者に謝礼金を先に渡していた。2週間の”面倒な記入”に、何とか耐えてもらおうと考 えてのことである。食事内容を2週間も書き続けるという初めての調査で、中途脱落が何よりも恐かった。調査員の方々が苦労して協力を得 た対象者であることを思えば、できる限り継続してもらう手段を講じたかった。
回収点検のときにある調査員が、”私、対象者の方にお礼を言われてしまった”と、仲間と話していたのをたまたま耳にした。えっ、お礼はこ っちがするんじゃないの。何でお礼を言われたの。その対象者は謝礼金に対するお礼を言ったのだという。律義な人だなと、特に気にもかけ なかった。ところが、その次の調査員の言葉には、少なからぬショックを受けた。対象者のお礼の言葉は、”この間はありがとうございました。 早速夕飯に、いいお肉を買って「すき焼」をしました。家族もみんな喜んでいました”というものだったそうだ。回収された日記帳にもきちんと 「すき焼」の文字がある。
こんなことがあるなんて、予想もしていなかった。う〜ん、どうしたらいい。同様なケースは他の対象者にもあるだろうし、それが「すき焼」 とは限らないし、データ修正はできない。まさか、謝礼金によってふだんと違うメニューになりましたかと聞くこともできない。ここは、メニ ューセンサスという調査が、すき焼関連食材のマーケット拡大に作用するという、立証データを得たことに満足する以外なさそうである。今後 の対策として、ふだんのメニューに影響を与えない謝礼金は何円以下か、などと考えるまでもなく、即刻謝礼金は「後渡し」に変更した。
2週間の協力を了承した対象者が、中途脱落するケースは240世帯(季当りサンプル)のうち数世帯であることがその後確認できた。この陰には 対象者を励ましながら、記入を継続してもらおうと奮闘している調査員の努力があることを、忘れてはならないだろう。第4回調査から、諸々の 事情を考慮して240世帯に対して4〜6のオーバーサンプルを設定し、中途脱落に備えるようにした。

 2 漬物に牛乳
あるクライアントから、漬物の使用材料を調べていたら「牛乳」が出てきたが、何かの間違いではないかという電話が入った。デ ータを確認したが、指摘通りである。漬物のうち「塩漬」であることが分かった。事実なら、塩漬に牛乳をかけたと想像できる。 後にも先にも、”漬物に牛乳”はこの時の塩漬だけだった。(下記表)。
牛乳使用頻度の0.016%(3/18979)、塩漬の0.025%(3/12161)に過ぎない。限りなくゼロに近い件数だが、クライアントに対して、 ”0とみなせるから無視してください”とはいえない。データの品質にかかわる問題だからだ。
こんなとき、真っ先に頼るのは、「料理と材料の条件チェックリスト」である。調理形態(注)別メニュー(約3,000)ごとに、「なく てはならない材料」「あってはならない材料」両面から、or/and条件を組合せマシンチェックするものである。例えば、出来合い・お にぎりには「出来合い寿司、ごはん類」という材料がなくてはならないし、「米」「冷食おにぎり」「小麦粉」…のうちいずれの材料 もあってはならない。



年間30万データについてこのチェックを行っている。条件に合致しないデータはエラーとして弾かれ、原票に戻ってチェックする仕組み になっている。従って、種々のミスによるいわゆるおかしなデータは排除できているはずだし、この面のクライアントの評価も得てきた 。チェックリストをみる限り、漬物に牛乳は「あってならない材料」として条件設定されている。しかし時には、条件に合致しないエラ ーデータでも、原票に戻って確認出来たもの(対象者に問合わせることもある)は、強制的に通すケースもある。今回の件はこのケースの 可能性が高い。しかし困ったことに、該当する原票は3年の保管期間を経過し、廃棄処分になっていた。原票に戻ることはできない。
また、これとは別にメニューセンサスはどんなメニューでも、現在用意されているメニューコードのどこかに落とし込まなければならない 。例をあげると、フランスの家庭料理である野菜の煮込み「ラタトゥイユ」は、頻度がごく低いことから単独コードとしてはまだ起こして いない。この料理が出てきた時点で、使用材料、調理方法、調味料が最も近い「野菜の塩煮」に入れその記録を残し、将来のコード分離に 備えるという方法を採っている。問題の「塩漬」に過去、サワークラウト(注)が日本の代表的な塩漬である一夜漬、野沢菜漬、しば漬な どと一緒に、コーディングされた記録が残っていた。確かに塩漬と牛乳の組み合わせはあったようで、それもサワークラウトらしいことが 分かった。
強い酸味と独特の風味を和らげるため、牛乳を用いることは想像できる。これを確かめようと、初めにクライアントでドイツ勤務を2年ほど 経験された方に、この組み合わせについて問合わせたが、見たことも聞いたこともないという答えだった。次の乳業メーカーの方からは、日 本人には”牛乳を使う”人がいるという答えを得ることができた。冒頭の問合せ先に報告したところ、サワークラウトならあり得るかも知れな い、と理解はしてくれた様子で一応の決着をみた。
この騒ぎの時は、今度サワークラウトにお目にかかったら、牛乳をかけて試してみようと思っていた。それから何年も経ってつい最近、ドイ ツ風レストランで、ソーセージの添え物としてサワークラウトに出会った。ほどよい酸味と風味があり、あまりのうまさにラストオーダーが 終了していたにもかかわらず、無理を言いお代わりを出してもらった。ウィスキーとの相性が意外とよく杯も進んだ。漬物が日本酒に合うの と同じ理屈なのだろうか。本来ドイツといえばビールとなるのだろうが、どちらも「麦」を原料にし、蒸留/醸造の違いだけで本質は同じだ と、妙な納得をしてしまった。
そんなわけで、牛乳のことは今回の「この部分」に触れるまで、きれいに忘れていた。この次は忘れずに試したいと思う。皆さんも機会があ ったらぜひ試してください。そして、その時の話を聞かせてください。

(注)
  調理形態:料理の作り方=手作り、半手作り、ビン・缶詰、インスタント、レトルト、冷凍食品、残り物、もらい物、出前・宅配、出来合 いの10分類
  サワークラウト:ザウアークラウト(酸っぱいキャベツ)、ドイツの代表的料理。キャベツを塩漬けにして醗酵させたもので、酢の類は使 用していない。


 3 ごちそうの翌朝は

今では食卓に用意された2つのメニュー間の組み合わせなら、PCデータ検索から瞬時に引っ張り出せる。ただし、あくまでも2メニュー間である。3、 4、5…と増やし10メニュー間ぐらいまでくれば、食卓をそのまま再現できるだろう。このデータ検索を可能にするためには、超特大の記録容量が必 要になる。現在2メニュー間クロスの必要容量は、約30MByteである。3メニュー間となると、単純計算で30MByte×500メニュー=15Gbyteになってしまう。 実際には発生しない組み合わせがあるので1/3程度か。それでもPCによるデータ検索の許容範囲をはるかに超える。従って、食卓の再現に関わる要請に対 しては、特定メニューをキーにした特別集計で対応してきた。
「食卓の再現」はよく出る話題だが、その先何を分析したらよいか明快な答えが出ないまま、現在に至っている。そんな折、クライアントの1社から 、台所の調理から食事風景までのビデオは撮れないか、という相談を受けた。そのテーマを検討した結果、「食卓写真」なら可能かも知れないとい うことになり、Vol.7(1993-4年)に挑戦することになった。データの一部分であるが、ビジュアル化した食卓から、分析のヒントを得ることができ ないかを意図したものである。
協力が得られた対象者に、レンズ付きフィルムを渡し、ご自身で食卓を撮影してもらうものだ。季別に25世帯(Vol.9、10では30世帯)をメドに、平/ 休日、朝/昼/夕食を織り交ぜて12シーン程度とした。本体調査に影響が出るようであれば即時中止するよう、調査員にはお願いした。後で聞いた話 だが、ご主人から”何をしている”などと叱責を受け、中止したケースもあったという。その食卓風景の一端を”文字アル化”すると、

・彩り鮮やかな食卓
・牛乳パックがでんと構えている食卓
・いつもビール・ビンが顔を出している夕食
・子供がVサインを送ってくる食卓
・マクドナルドに喜ぶ子供の食卓
・旦那さんの疲れた顔がある食卓
 (この写真集は外部の欲しい方にさし上げたが、当然「人物」はすべてトリミングした)
・ランチョンマットが敷かれている食卓
・子供の弁当まで撮ってくれた家
・きれいに盛り付けた食卓
・病気のためお茶と梅干しだけの食卓
・旅館の朝食のような食卓
・必ず特製のお茶が出てくる食卓
・出来合い品が顔を連ねる食卓
・はし置きが用意されている食卓
・何故かプルーンがよく出る食卓
・子供が小さいため冷凍食品だけの母親の昼食
・西洋皿だけで、煮物などを入れる深い器がない食卓
・母親と子供だけのためか、簡単な食卓
・何かイベントがあったのか、豪華な食卓…
総じてふだんのままの食卓との印象を受けた。写真を撮るということで、何らかの構えが出るのではないかと危慎していたが、取り越し苦労だっ たようである。その自然体の最たるものとして、強く印象的だった食卓を紹介したい。タイトルの”ごちそうの翌朝は”である。
そのご家族は、ご夫婦とお子様2人(当時6才、5才の男女)の4人という2世代家族である。ご夫婦とも関西出身。ご主人は、刺し身、湯豆腐、煮込 みうどんが好物で、お子様はフライドチキン、フライドポテト、オムライスが大好きだという。奥様は献立を考えるとき、子供の好き嫌い、特に野 菜を食べないことに日夜苦労している。どこでもみかける家族ではないだろうか。



土曜日の夕食は、ごちそうとビール。日曜の朝、ゆっくりと寝ていたところ、おなかを空かした子供にせがまれて、仕方なく全員「カップラーメン」 といったところだろうか。経緯はともかくとして、1”家族の食卓”をほのぼのと感じさせてくれた2枚の写真だった。

 4 食卓写真の一枚一枚から

先の文字アル化はキリがないので、適当なところでストップしたが、どのシーンにもデータからは読み取ることができない「表情」があったし、「背景」 が想像できた。この表情と背景一つひとつがおそらく、食卓再現に関わる分析のヒントなのだろう。表情/背景の類型化、数量化が課題なのだと思っている のだが。


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